痔とまぎらわしいオシリの病気のなかには、とくに女性に要注意のものがあります。その一つが「直腸ポケット」で、中高年の女性が排便困難を訴える大きな原因の一つになっています。「直腸瘤」や「直腸膣壁弛緩症」とも呼ばれますが、一般的にはあまり知られていない女性特有の病気です。
女性の膣と直腸を隔てる壁は、もともと薄いものです。出産や排便時にかかる負荷、あるいは加齢などにより、その壁がさらに薄くなることがあります。排便時のいきむ動作によって、直腸と膣の間の薄くなった壁が膣側へとポケット状にふくらんでいきます。これが「直腸ポケット」で、このポケットに便がひっかかって通りが悪くなります。すると排便しようといきんでも、便を押し出す力がポケット状になっている膣側に分散します。その結果、便をうまく排出できなくなります。
直腸ポケットの方の調査で、次のような回答があります。
・排便の際、肛門のところで、便が止まってしまう(83%)
・肛門の周りを圧迫して便を出す(75%)
・指でかき出す(44%)
・残便感がある(40%)
・下剤や浣腸を使用している(63%)
直腸ポケットの症状は、感覚的なところが大きいものですが、排便造影検査を行うと直腸ポケットが映し出されます。
~当院の治療法~
排便造影検査というのは、小麦粉などをペースト状にしたものを便の代わりに直腸に入れ、排便してもらいます。その過程をX線ビデオカメラで撮影し、通常の診断では分からない排便機能の異常を客観的に観察するものです。この検査で、客観的に正確に診断を行うことができます。
手術で症状は改善します。当院では、過去に300例ほどの手術を行っています。女性が要注意の病気に、「便失禁(肛門括約筋不全)」もあります。便失禁は排便の禁制がきかず、無意識のうちに、または意思に反して便の排泄がたびたび起こる状態です。便の禁制は、「筋力・感覚・容量」の三つのバランスで保たれています。このどれかに問題が起こると、便失禁が生じることになります。
・筋力の低下
吸引分娩、会陰切開、肛門手術(痔瘻や鎖肛などの幼少期の手術)、外傷(脊髄損傷)、加齢などによる肛門括約筋の筋力の低下。とくに、吸引分娩では高率で括約筋の挫傷が起こる。
・感覚の低下
排尿障害治療薬などの薬による感覚の低下。直腸や肛門には便とガスを区別する機能があるが、薬の使用でその機能がうまく働かなくなる。
・容量の低下
直腸がん、大腸全摘などの手術による容量の低下。
便失禁は、女牲に特有のものではありません。大阪大学に、日本人の65歳以上の成人約1400人を対象とした調査があります。この結果は男性で8.7%、女性で6.7%に便失禁の症状があり、2%で1日1回以上の便失禁を来すとされています。それでも、ここで便失禁を「女性が注意したい病気」としたことには理由があります。
出産(とくに吸引分娩)のあと、筋力の低下から便失禁になる方が多い。
これが、女牲が便失禁を注意したい病気に挙げた理由です。女性にとって、子供を授かることはとてもハッピーなことです。しかし、出産が原因で便失禁になってしまっては、その幸福感の一部は損なわれてしまいます。さらに、それに対処できる病院がほとんどないことも問題ですが、当院では出産後の便失禁に対応しています。
排便コントロールと薬物療法
水様便などが漏れず、また、硬くて肛門に負担のかからない質の良い便が腸に降りてくるように、運動や食事、場合によっては薬を使用して排便をコントロールします。
骨盤底筋体操(仰向け姿勢)
1. 腹式呼吸
仰向けになり、リラックスしてゆっくりと腹式呼吸を行う。
2. 肛門の運動
リラックスした状態で、肛門をリズミカルに「締めて、ゆるめて」を10回繰り返す。(最初に速い動きで肛門を締める練習をする。その際、片手をお腹の上に置き、腹筋に力が入らないように注意、もう一方の手を会陰部に置いて、ここの筋肉が締まるのを確認するようにする)
3. 声を出す
肛門を締めたまま、声を出して「1、2、3…」と10まで数え、肛門をゆるめる。30秒ほどリラックスしたら、もう一度行う。これを10回繰り返す。(骨盤低筋が締まってくるのが自覚できたら、毎日根気よく続け、持続力を鍛える)
骨盤底筋体操(立った姿勢)
1. 手を置いて立つ
両手を肩幅に広げ、机やテーブルの上に置いて立つ。両脚も肩幅。
2. 体重をかける
背中をまっすぐ伸ばしたまま、上半身の体重を腕にかける。顔は正面に向ける。
3. 締める
肩とお腹の力を抜いて、肛門と膣、尿道口を締める。(台所の流しなどを活用し、この動きを日常生活に取り入れる)
肛門タンポン
外出時などに肛門内に挿入します。中で膨張し、便失禁を防いでくれます。
低周波電気刺激療法
TVショッピングに、腹筋を鍛える低周波機がよく出てきます。それと同じ原理を、肛門に利用したものです。肛門管内に肛門リハビリテーション用の電極を挿入し、低周波の電気刺激を加えます。電気刺激は、安全なものです。その電気刺激で肛門管組織の血流量が増え、肛門括約筋の筋力がアップします。ー回の治療時間は5分程度ですが、繰り返し行うことで効果が出ます。
括約筋形成術
切断された筋断端を縫合します。このとき、筋断端をきれいに露出するのではなく、瘢痕組織を付けたまましっかりと縫合します。外傷性の便失禁に対する外科治療として有効です。
前方拳筋形成術
左右の肛門挙筋、外肛門括約筋を非吸収糸で縫って縮めます。分娩時の括約筋損傷などの症例に適用します。吸引分娩による括約筋断裂では、切断面がはっきりしないことが多く、一般的には硬くなった瘢痕組織を探し出して縫合します。
肛門後方修復術
外肛門括約筋を折りたたむようにして縫い縮めることで、肛門に力を入れやすくします。同時に、肛門後方で、恥骨直腸筋を縫い縮め、直腸を前方に折り曲げます。この二つのことで、直腸肛門角を強くし、便失禁を改善します。
女性の膣と直腸の間の壁は、非常に薄いものです。様々な原因で穴が開いてつながってしまうと、膣からガスや便がでてきて不快に感じます。下記のようなことが原因になることがあります。
・婦人科の手術
・出産時の会陰切開・裂傷
・直腸肛門部の手術
・婦人科領域のがんや直腸がん
・クローン病やベーチェット病などの炎症
・避妊具などの異物
穴が小さい場合、絶食していれば自然に閉じることもあります。多くの場合は手術が必要になり、当院では過去に50症例ほどの手術を行っています。その手術も、単に穴を縫合するということでは治りません。無埋に縫合しようとすると、穴はますます大きくなってしまいます。穴の開いているところだけではなく、その周りを十分に剥離して、周囲の筋肉や結合組織を介在させ、穴の開いている腔壁と直腸壁を遠ざけることが大切になります。
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